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脆弱
「みーちゃ〜ん」
歩いていたら、どこからかそんな声が聞こえてきた。
まさかね。
「ちょっと、みーちゃん無視しないでよぉ」
声の主が追いかけてきた。
嘘でしょ?
「ねぇ、みーちゃんってば」
「みーちゃんって言うな」
振り向いたら、やっぱり彼女だった。大石雫。
彼女と一夜を共にしたのは、一週間前の事だ。
「偶然だねぇ、こんなとこで会うなんて! 運命かも」
構わずに歩いていると、嬉しそうについてくる。
「ねぇ、大きな荷物だね、まるで海外にでも行くみたい」
私のキャリーケースを見ながら言う。
「帰ってきたとこよ」
「えぇ、だからずっと会えなかったのか」と呟いた。
「ん?」
「なんでもないっ、ねぇ、どこ行くの?」
「疲れたから、軽く飲んで帰る」
「わぁい」
「連れてくなんて言ってないけど?」
「そんなつれないこと言わないでくださいよぉ、やっと会えたのに」
いつのまにか隣に来て歩調を合わせて歩いている。
「もしかして、毎日この辺で私を待ってた?」
少し声を落として聞いた。前回は、迷ったけれど連絡先を教えずに別れたから。
「え……そんなわけないじゃないですかぁ」
一瞬真顔になった気がしたけど、そうだよね、そんなわけないよね。
初めて会った居酒屋の近くで再会したのは、ただの偶然だよね。
件の居酒屋から5分ほど歩いたところにあるバーへ入った。
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