脆弱

3/4
前へ
/185ページ
次へ
 しまった。  飲みやすいカクテルだけど、アルコール強めだった。 「あれ、寝ちゃった? 奥で休んでく?」  マスターが気を利かせて声をかけてくれた。 「大丈夫だと思う。タクシーで連れて帰るわ」  なんとかタクシーに乗せて、終電を逃した時によく利用するビジネスホテルへ向かった。 「ここ、どこ?」  部屋のベッドに寝かせて、しばらくしたら目が覚めてきたようだった。  私は時差ボケで目が冴えていたので、椅子に座って本を読んでいた。 「ホテルだよ」  本から目を離さずに答えた。 「お持ち帰り、してくれたの?」 「家の場所、知らなかったからね。どうする? 帰る?」  いつのまにか近寄ってきていて、背後から抱きつかれた。 「一緒にいてくれないの?」  耳元で囁かれてドキリとした。 「起きたのなら、私が帰ろうかな」  一緒にいたら理性が保てないだろうーー今さらかもしれないがーー 「抱いてくれないの?」 「酔っ払いを抱く趣味はない」  抱いてしまったら、セフレになってしまいそうで。それは、なんか嫌。だったら突き放した方がいい。 「酔ってない」 「酔っ払いはみんなそう言うんだよ」  背中から離れた、と思ったら正面に回って膝の上に跨った。 「ちょっと……なっ」  何してるの、と言う前に。  まただ。この上手すぎるキスに翻弄される。 「ちょ、雫、やめて」  やめてくれないと、止められなくなる。 「嬉しい、名前、憶えててくれた」  キスはやめてくれたけど、今度は正面から抱き着いて首筋を舐めてくる。  だから、そんなことされたら。  私の弱すぎる意志なんて、あっけなく砕け散るんだから。 「雫!」 「はい」 「ベッド行こ」
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

300人が本棚に入れています
本棚に追加