そういうこと

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 一瞬で作り笑いがなくなった。  可愛い子が怒ると、なかなか迫力がある。 「ごめん」  つい、口走ってしまう程に。 「何の謝罪ですか?」  やばい、更に怒らせてしまったらしい。 「えっと、その……」 「最悪ですね」 「私、何かしたかな?」  致したけれど、あれは同意があったというか、むしろ誘われた感じだし。 「なんで先に帰っちゃったんですか?」 「仕事あったし、気持ち良さそうに寝てたから。メモにも書いたよね?」  あの日は朝イチで出張の報告をしなきゃいけなくて、先に出た。宿泊代は払っておいたから迷惑はかけてないと思うけど。 「じゃぁ何で、ちっとも連絡してくれないの?」  少し声が震わせながら、ずっと待ってたのに、と言う。 「えっ、だって連絡先ーー知らないよ」 「は?」  しばらく無言で見つめ合った。  何かが食い違ってるようだ。 「名刺渡しましたよね?」 「あぁ、うん。でも職場にかける程の要件でもないしーーって、ん?」  雫の眉間に深い皺が寄った。可愛い顔が台無しだわ。 「みーちゃん、もしかして裏見てないとか?」 「裏? 名刺の?」  まさか。  急いでバッグの中の財布から、雫の名刺を取り出した。  裏にはしっかりと携帯の電話番号が手書きで書かれていた。 「ごめん」 「それは、何の謝罪?」 「気付かなかった馬鹿な私をお許しください」  ほんとバカ、小さく呟いたけれど眉間の皺はなくなっていた。良かった。 「じゃぁ、はい」  雫が右手を差し出した。 「ん?」 「お名刺を頂戴出来ますか?」 「あ、はい」  慌てて名刺入れから取り出したソレの裏に、番号を書いて渡した。  雫はじっと見て、微かに笑った。 「出ましょうか」  雫の言葉に、私は抗う術もなくバーを後にした。
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