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すくいの電話① 失恋の辛さ
シクシクシク。
一人部屋で静かに顔を伏せて泣く、若い女性。
富村玲依は、横浜市内のアパレルショップで働く店員で、年齢は22歳である。
玲依は双極性障害を患っており、感情の浮き沈みが特に激しかった。仕事柄接客業であるため、勤務中は客にも従業員にも明るく振る舞っているが、仕事の疲れもあり、休み時間や通勤途中は一人でスマホでネットの記事や動画を閲覧するのが息抜きになっていた。
彼女のいちばんの支えは恋人の存在だった。仕事のこと、病気のこと、将来についても何でも打ち明け語り合えた。彼がいたから、辛いことがあっても乗り越えてこられたのだ。
なのに……。
先日、些細なことでの言い争いが原因で、彼の方から別れを告げられた。どうやら、病気持ちの彼女をサポートするのに限界を感じたらしい。
ここまで来てどうして……。精神疾患があることは、付き合う前からわかっていたはず。途中で投げ出されたように感じ、正直玲依は彼に怒りを覚えた。
あまりにも虚しい。
何せ約2年半に及んだ交際が、あっけなく終わり、心の支えが消えたのだから。
今の気分は明らかに最悪で、死にたい気持ちがここ数日で一気に増幅してしまっていた。
--もう無理。辛すぎて頭おかしくなりそう。泣き疲れた。死にたいし、自殺したい。誰か、助けて--
失恋の悲しみが極度に酷く、耐えきれなくなった玲依は、心の中でそう叫んだ後、以前から存在を知っていた周防が営んでいる事務所宛に『すくいの電話』をかけた。
プルルルル…。
話し中である可能性も高いが、果たしてつながるか…。
「お電話ありがとうございます、『周防すくいの事務所』でございます」
よかった、つながった!
「あ、あの私、えっと……」
「名前は名乗らなくていいですよ。あるいは匿名でもかまいません。どうなさいましたか?」
「私、7日前に失恋しまして。2年半付き合った彼氏と喧嘩して、別れました。辛すぎて何も手につきません。死にたいです」
玲依は、淡々と悩みの詳細を周防に伝えた。涙は既に枯れていた。
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