会いたくて

4/5
前へ
/69ページ
次へ
うどんを口にしながら、杏里はそんなふうに思う。 会えたのは嬉しいけれど、そんな時はすぐ過ぎて、またそれぞれの生活に戻る時間が来る。 せっかく会えたというのに、もうそんなことを考えている自分に呆れてしまう。 「この後のことだけど、どこのお店に行くか決めておかないと。  慧はどんなプレゼントがいい?」 お店を決める、というのは口実で、実際にはどのくらいのものをお願いしていいのか、予測を立てる意味合いもあった。 慧の欲しいものの値段に合うように、自分の候補を3パターンくらい考えていたから。 「あのさ、本当に実用的なものになっちゃうんだけどいい? お互いの気持ちだから、いいよね」 「普段に使ってもらえるものなら、そっちの方が嬉しいよ」 「ありがと。僕、ダウンのベストが欲しいんだ。できればフードのついたやつ。ベストだと、室内でも屋外でも着たままいられるからさ。  あちこち探したんだけど、メンズはどれも大きいんだよね。杏里のお勧めのお店はある?」 「それなら、性別のない服っていうのを売り出してるところがあるよ。  そのシリーズじゃなくても、その店ならコンセプトがそういうスタンスだから、慧が女性のもの見ていても浮かないと思うよ、とりあえず行ってみる?」 そう言って、駅の隣のビルに入っているショップの話をする。 「うん、そうしよう。都内にもそこの系列店はいっぱいあるのに、今まで気づかなかったよ」 「デパートや百貨店でも最近は、紳士と婦人のフロアを分けない店が出てきてるから、きっとこの先は慧の買い物も楽になるよ」 「そうなるといいなあ。僕の身長はもう伸びないからな…。  杏里は何が欲しい?」 「あのね、最近カード決済が増えてきたから、財布が薄くなったの。  それで、ちょっとしたお出かけ用に、スマホと小物が入るような小さいショルダーポーチが流行っているから、それがいいな」 「分かった。どこでも付き合うよ」 慧が服を選んだから、アクセサリーじゃなくてミニバッグにした。 もっと頻繁に会えていたら、こんな時、サプライズでプレゼントを贈ることもできるのにね。 「それでね、今回のデートは、ホテル代も食事やお茶代も半分こにしよう?」 「ホテルの部屋代は、もうカードで払っちゃったよ?」 「だからその分も後で清算しよう。私、予備のお財布持ってきたから、とりあえず同じ額出し合って、食事やお茶はそこから払おうよ、ね」 何となく、慧が払ってくれる時が多くて、いつも気になっていたから、今回は最初からそう言ってみる。 同じ年なんだから、どっちかの負担が重くなるのはおかしいような気がしていた。 「杏里はその方がいいんだね。ホテルの部屋は勝手に決めちゃったけど、いいのかな?」 「もちろん。まさかスイートルームとかじゃないよね」 「スイートではないよ」 何となく、その言い方に含みがあるように思ったけど、後のお楽しみに聞かないことにする。 席を立つとレジでお金を支払い、外へと出る。 杏里は先に立って、さっき話していたお店へと向かう。 百貨店のテナントに入っているその店は、入り口付近にシーズンのお勧め服が並んでいた。 ダウンベストは、スタンドカラーのものはあったけど、フードのついたものはなかった。 「どうしようか? 他のお店でフード付きを探すか、このお店の品質を取るかだけど」 「そうだね、まだ時間もあるし、他のお店も見てみない?」 「そうしよう。私の欲しいものも他のところにいかないとだから」 そう話しながら店内を見て回る。 「これ可愛い。でも僕がすると本当に子どもに見えちゃうかな」 慧が見ているのは、子ども服のコーナーにあった動物の顔が編み込まれたマフラー? ネックウォーマー? 首にひと巻きして、片方の真ん中に通す形の短いものだ。 グレーの地に白いクマの顔が浮かんでいる。 品物の選択基準が「可愛い」っていうのは、慧ならではだな、と思う。 「そういうものを選ぶ慧が可愛いよ」と思わず笑ってしまった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加