とっておきの夜

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とっておきの夜

エレベーターで一気に15階まで上がった。 そこがホテルのフロントになっていて、すでにチェックインの人が数名並んでいた。 平日ということもあり、それほど混んではいない。 慧は慣れた様子で、チェックインの手続きをする。 「本日は、こちらのプランでご予約いただいております。夕食は7時でよろしいでしょうか」 フロントの女性に言われて、「はい、お願いします」と頷いている。 彼は国を超えて、あちこちのホテルに泊まっているはずだから、今回のホテル選びには、それなりの理由があるのだろうとは思ってはいた。 だから、どこのホテル?とはあえて聞かなかったのだけど。 …折半にしてね、と言っておいて良かった。いつも彼にばかり頼るわけにいかない。 カードキーを受け取って、「行こう」と杏里を促すと、さっき出てきたエレベーターにまた乗り込む。 慧が押した階のボタンを見て、ちょっと驚いてしまう。 「本当はね、上にもっと良い部屋があるらしいんだけど、僕たちにはまだ、分不相応かなって思って。今回はレギュラーフロアにしておいた。  いつかスイートルームとかに泊まれると良いね」 そう言いながら、その階に停まったエレベーターから降りると、壁に付いている部屋番号を確認しながら歩き出す。 「ここだね」とカードキーをかざしてドアを開けると、右の手のひらを部屋に向け、杏里に「どうぞ」と言った。 「…わぁ……」 入った途端、思わず声が出てしまった。 部屋自体が広い。 国内でいつも利用するようなホテルは、ベッドの周りに辛うじて歩くスペースがある、というようなところばかりだったけど、ここは違う。 ベッドが真ん中に置かれていても、全く圧迫感がない。 斜め向かいの壁側には、画面の大きなテレビに、電気ポットやカプセルコーヒーのマシンまで置かれたキャビネットがあるのに、その間にも充分なゆとりがある。 杏里は迷わず、部屋を横切ってカーテンが開けられたままの窓辺へと向かった。 「…すごい。綺麗…」 そこには、冬の短い日が落ちてすっかり暗くなった空の下、一面の夜景が広がっていた。
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