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今回は2泊同じホテルなので、荷物は着替えくらい。 慧の親御さんが一緒に食事を、と言ってくださっているので、お土産の入った紙袋を提げてきた。 「杏里…!」 駅構内の、このお店の辺りで、とあらかじめ決めてあったところへ歩いていくと、先についていた慧が駆け寄ってきた。 「久しぶり、2カ月ぶり…。ぎゅっとしたいけど、我慢する」 旅行バッグを受け取りながら手をつなぎ、顔を寄せてそう囁かれ、少し顔が赤くなった気がする。 前回、初めて彼と身体を重ねた夜のことを、思い出してしまったから…。 「昼はまだだよね、何食べたい?」 「う~ん、和食がいい。ご飯とお味噌汁と何か、みたいな」 「分かった。行こう」 彼は荷物のない方で杏里の手を引くと、駅の出口へと向かっていく。 「前食べた、赤だしのお味噌汁、美味しかったな。また食べたい」 「ああ、あれね、いつでも作ってあげるよ。なめこと油あげとか、どうかな」 「聞いただけで美味しそう」 「お味噌を買ってこないとだね」 まるで、先週も会っていたかのように、そんな話をしながら並んで歩く。 慧は、人前で手をつなぐことに抵抗がない人だ。 男だから、女だから、という考え方もほとんど持っていない。 それは育った環境もあるし、海外で仕事をすることも多いからだと思う。 そんな彼だから、最初はこうあるべきに囚われていた杏里も、変わることができたのだ。 「杏里はこっち、久しぶりなんじゃない?」 「そうだね、マンションを引き払ってから来てなかったかも」 慌ただしい街の様子は変わっていない。 この駅だってよく来ていたはずなのに、なぜか他所のように感じる。 「これからの予定は?」 女子が喜びそうな、カジュアルな定食屋さんに落ち着き、雑穀ご飯とグリルチキンがメインのランチを注文してから慧に聞いてみる。 「今日は特に予定はないから、ぶらぶらしてホテルに行くのも良し、どこか観光するのも良し。  明日の午前は指輪を見に行って、午後はホテルでブライダルの相談ね、夜はうちの親に付き合ってやって。  明後日は新幹線の時間まで自由だよ」 「じゃあ、今日はちょっと買い物したいところがあるんだ。付き合ってくれる?」 「もちろん」 そんな話をしているうちに、四角いお盆に乗ったランチが運ばれてくる。 ご飯は小盛でお代わり自由、味噌汁もお代わり自由とのこと。 メインのチキンの下には、パプリカや紫ほうれん草など、カラフルな添え野菜が敷いてある。 慧のメインはアジフライ。そちらも揚げたてでおいしそうだ。 「こっちも少し食べてみる?」 そういって、箸を口に入れる前に、アジフライの4分の1くらいを切って見せる。 うん、と頷くと、自分のチキンを同じ分量くらい箸で割いて交換してあげた。 食べてみる?は、僕もそっちを食べてみたいの意味だ、と気づいたことで、自分の口元が緩んだのが分かった。
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