283人が本棚に入れています
本棚に追加
「実はさ、いつもアイディアもらってた義姉さんのショップが、日本での販売を本格的に始めることになってね、倉庫兼事務所を作るんだって。僕も手伝ってって言われてる」
「そうなの? どんなお店?」
「前から日本向けにネットショップやりたがっていたんだけど、子ども服は結構、競合があるんだよね。韓国とか?
それでとりあえず、杏里が言っていた大人の小柄の人専門ショップにするんだって。
あまり大きくしないで、在庫を作った分だけ売るみたいな?」
「いいね、小柄ってどのくらいの?」
「145~165くらいかな。ものによって差はあると思うけど」
最初、慧と会った時、彼は袖のふっくらしたブラウスを着ていた。
襟と袖に燕の刺繍が入った素敵なものだったので、てっきり女の子だと思ったんだ。
身長162センチの彼は、少年のような体系なので、子ども服そのままでも着ることができたけど、大人女子の場合はそういう訳にはいかない。
胸や背中、お尻や腿にもゆとりが必要だし、そうしたことで太って見えるのも避けたい。
それで、杏里よりさらに小柄な親友の恵麻と、お義姉さんが送ってくれた服を試着して、いろいろな我儘を言わせてもらった。
慧がその時着ていたブラウスは、今、杏里のクローゼットの中にある。
慧が、杏里が履いていたダメージジーンズを欲しがったから、交換したのだ。
「買いたいものは何? どこに行くか決めようか」
食後のお茶を飲みながら慧がそういう。
杏里は頷いて、「多分、デパートとかに行けばあると思うんだけど…」とスマホの画面を見せる。
それは、ガラス製の小さな雛飾りだった。
薄い台の上に、勺が彫り込まれた男雛と扇を持つ女雛だけの飾りが置かれている。
二人だけだけど、両側にはぼんぼりが、背面には金の屏風が置かれている。
「お母さんにね、こういうの買ってあげたいの。
自分のはもう、ずいぶん前に処分しちゃったんだって。
いつも私のを出してくれる時、今時のお雛飾りが欲しいな、って言ってたから」
本格的な雛飾りでなく、シーズンになるとお店のカウンターに乗せられているような、マンションの玄関で訪れる人の目を楽しませるような、ディスプレイ用の小さなお雛様だ。
最初のコメントを投稿しよう!