283人が本棚に入れています
本棚に追加
You are my angel
その夜は、慧が予約してあったレストランで食事をした。
個室ではあるけど、ドアの形に壁がくり抜かれていて、廊下との出入りが自由な席に案内される。
料理はコースを予約してくれてあったので、まずはビールをオーダーする。
せっかくなので、これまで飲んだことのないのがいい、という杏里の希望を聞きながら慧が選んでくれる。
「遅くなったけど、誕生日おめでとう」
慧がそう言ってビアグラスを持ち上げるので、杏里もそれに倣って、カチンとグラスを合せる。
「ありがと。ちょっとの間だけ、私が年上だね」
そういって少し泡の収まったビールを舌で味わう。
「うん、そんなに苦くなくて爽やかだね。美味しい」
すぐに出てきた前菜の盛り合わせは、花弁のように畳まれたサーモンスライスや、数種類のチーズ、マリネなどで、眼も楽しませてくれる。
一緒に暮らそう、と杏里が話したことで、話の内容はどんどんと現実味を帯びてくる。
どこの場所にしようか、間取りはどんな感じがいいか、広さは…?と、話は尽きることがなかった。
その後も、トマトと生ハムのサラダ、チーズフォンデュ、カットステーキと続き、メインはパスタとピザ、パエリアなどから選べる、ということで、ピザとパエリアを選ぶ。
「最後はスイーツも出てくるんだね、楽しみ」
締めのコーヒーとミニケーキ盛り合わせを待ちながら、杏里が目を細める。
「杏里、これ…」
慧が小さな箱を取り出し、渡してくれる。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう…」
平べったい箱を受け取り、「開けていい?」と聞いてから、パステル調の包装紙を外していく。
「わっ、可愛い、ありがと」
蓋を開けると、ピンクゴールドのネックレスが入っていた。
トップは左右非対称のオープンハート、中に赤い石が下がっている。
よく見ると、ハートの形を作っているのは羽根だった。
「これってガーネット?」
「そう、誕生石だよね。形にこだわったから高級品じゃなくてごめん。普段に付けてね」
「嬉しい、可愛い、付けるね」
台座から外している間に、慧が立ち上がり、杏里の背中へ回ってネックレスをつけてくれた。
「今日の服に合ってる、良かった」
アイボリーの薄手ニット、首元はVカットだ。
「さりげなく羽根なのがいいね、お洒落…」
「うん、杏里は僕の天使だから…」
そんなふうに言われると照れてしまう。
そういえば慧は、「空から僕の天使が降りてきたと思った」って言ってたっけ。
「…杏里が、杏里のままで良かった」
ふと、慧がそういった。
最初のコメントを投稿しよう!