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次の日はまず、指輪を見に行くことにしていた。
前に名古屋で一度、どんな感じなのかお店に行っていたから、事前にネットでどんなのにするのか相談してあって、ショップも予約してあった。
ショップに行くとすでに、お目当てのものが用意されていて、実際にはめてみることもできた。
一応、他の物も見てみたけど、もうそれに決めることにする。
シンプルなプラチナのリングの、一部分だけに波のような形が刻まれている。
実はふたつの指輪を重ねると、それがハートの形になるのだ。
「重ねてみないと分からないってところが、何か可愛いね」
式の日とお互いのイニシャルを入れてもらうことにする。
その手続きをしながら、あぁ…私も結婚するんだなぁ、と思う。
「杏里、こっち見て…?」
ブライダルコーナーのもう一方から慧が呼ぶ。
そちらは、ダイヤモンドをちりばめたエンゲージリングがいっぱい並んでいた。
「僕はこういうのを杏里に贈りたい。良いのを選んで?」
…え~っ。…値段も気になるし、今ここで見て、これが良い…なんて言えないよ。
杏里は心の中でつぶやき、でも、そこまで考えてくれていた慧の気持ちを思う。
「うん、そっちはまた相談させて…?」
慧は、そうなの…?という顔をしたけど、それ以上は言わなかった。
ショップを出ると杏里は、「ありがとね」と言った。
「多分だけど、エンゲージリングってはめる機会は少ないと思うんだ。
だから私はいらないかな。せっかくの気持ちを無下にしてごめんね」
「そうなの? それでいいの?」
「うん、指輪よりもっと高いものをねだるかもよ?」
そういって茶化すと、慧は微笑んだ。
「一個の高価な物より、日々の小さな幸せがいい。
一緒にご飯作ったり、買い物行ったり。綺麗な景色を見に行ったり、家でのんびりくつろいだり。
そんな、当たり前だけどいろんなことを一緒にしたい」
そんなふうに慧に言うと、彼は杏里の手を取って立ち止まる。
ん…?と慧を見ると、彼は杏里の顔を見て「ありがとう」と言った。
「…そんな杏里と結婚できる僕は幸せ者だ」
でしょ? とおどけた顔をして「お互いさまにしよ?」と返す。
「じゃあ、毎年結婚記念日には何かを贈るよ。50年ローンで足りるかな?」
「ふふっ、金額じゃないよ。
お互いに、結婚記念日を覚えていること、感謝の気持ちをちゃんと伝えること。それでいいんじゃない?」
そうだね、と慧は頷いて「周りに人がいなかったらキスしてたよ、今」と笑った。
今は、こういう時しか一緒にいられない。
だから、こうやって隣にいて話ができて、並んで歩けるだけで嬉しくて、ずっとこうしていたいと思ってしまう。
…もうすぐ、それが叶う。…ううん、自分たちで叶えていくんだ、と考えよう。
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