You are my angel

5/5
前へ
/69ページ
次へ
コーヒーをいただきながら西さんにそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んで、「私もそう思います」と答えた。 「挙式自体も、他のホテルさんのような派手な演出はできませんが、その分、落ち着いた雰囲気で、皆さまの心に残る時間をご提供したいと思っています」 彼女はきっと、このホテル自体が好きなんだろうなと感じた。 ホテルの雰囲気に、彼女の存在が自然に溶け込んでいる。 西さんも椅子を引いて座ると、用意されていたパンフレットやプラン表などを見せてくれた。 「今回はご家族のみ、ということでしたので、こちらのプランがお奨めです。  挙式とお食事がセットになった10名様までのプランで、新郎新婦様のご宿泊も付いておりますので、ごゆっくりお過ごしいただけます」 遠方からの参列者には、宿泊料金の割引もあるということなので、母もここに泊まってもらえる。 こんな機会しか泊まることのないホテルだから、母にはこれまで育ててくれたお礼を込めてプレゼントするつもりだ。 あとは衣装とそれに合わせたお花を決めることになり、衣装室へ移動して実物を見せてもらう。 白ドレスが半分と、ピンクやブルーなどカラードレスが半分を占めていた。 点数はそんなに多くないので、気に入ったものがない場合、提携先でオーダーメイドもできるということだったけど、杏里はその中から白のドレスを2つ選び、試着させてもらうことにした。 ふわっとしたプリンセスラインと、大人っぽいスレンダーライン。 スレンダーラインは裾が長く、胸元はビスチェタイプの上部分がレースで覆われていて、襟元はスタンドカラーになっている。ノースリーブなのも個性的だ。 杏里は何となく、ビスチェだけで肩剥き出しというのに抵抗があったし、もともとノースリーブのハイネックが好きなので、こちらは好みの形だった。 もうひとつのプリンセスラインは「パニエを付けていただければもっと膨らみますが、このままでも素敵ですよ」と西さんが言うように、足首丈のスカートの上に、ふんわりとしたシフォンが重ねられている。 胸元はビスチェタイプだけど、スカートのシフォンと同じ素材で、ラウンドネックのケープが付いていて、それが肘の下まである。 ケープには襟元と裾に華やかなレースが縫い付けてあり、胴の部分にもスカートにも、そのレースが何本か流れていた。 スレンダーラインを着て慧に見てもらうと、「うん、杏里らしい。大人っぽいスタイルだね」と言っただけだったけど、プリンセスラインを着てみせると、慧は心からの笑顔を見せた。 「…杏里、可愛い。僕はこっちが好き」 もう30を過ぎているけど、一生に一度のことだから、可愛いのを着ておこうかなとそちらに決める。 ブーケは白だと温和しすぎるのでは、と西さんに言われ、パステル調に何色かのバラを束ねて、間にブルーの小花を入れてもらう。 慧と出会った頃は、顎の辺りまでのボブスタイルだったけど、このところ切らずに伸ばしていたので、当日はアップにしてもらえそうだ。 「慧はどうするの?」 そう言えば聞いてなかったと思ってそう言うと、彼は「そうなんだよね」と苦笑いする。 「西さんとも話したんだけど、僕の身長だとサイズが合うのはなさそうなんだ。  他店でレンタルもできるけど、今回は式の後でも着れそうなものをオーダーするよ。普通のスーツの形になっちゃうけど、良いよね?」 もちろん、と杏里が頷くと彼は、「そのうち義姉さんに、小柄な男性用のタキシードを作ってもらおうか」と言って笑った。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

282人が本棚に入れています
本棚に追加