素敵な結婚式

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素敵な結婚式

ドアにノックの音がして、近寄って行った西さんが扉を開けると、スーツを着た慧が入ってきた。 鏡越しに杏里と目が合って、立ち止まる。 「…うん、思った通り。杏里、とても素敵だよ」 西さんが椅子を引いてくれ、白い裾を気にしながらゆっくりと立ち上がる。 「慧も、良く似合ってる」 慧は濃いグレーのスーツに白いネクタイ。今回に合わせて新調したものだ。 結婚式の日は、よく晴れていた。 ホテルに入ったのは朝の8時。今はもう、10時を過ぎている。 髪のセットとメイク、ドレスを着せてもらい、やっと落ち着いたところだった。 「こちらへ座りましょうか」 西さんの声掛けで、窓辺に置かれたソファに移動するのに、慧が手を差し出してくれた。 並んでソファに座ると、西さんが向かいに立ち、両手をお腹の辺りに組んだ。 「本日はご結婚、誠におめでとうございます。  この良き日に当ホテルをお選び下さり、誠にありがとうございます。  最後まで精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します」 丁寧に頭を下げられ、慧と一緒に、一度立ち上がってお辞儀をする。 「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」 「本来ですと、今の挨拶は支配人がなさるのですが、本日はご遠慮いただきました」 そう言って西さんが笑った。 「この後、先にお二人の写真撮影を館内でさせていただきます。  お式は11時から、チャペルの方で行います。  式の次第はお打ち合わせの通りで問題ないでしょうか?」 慧と頷いて「大丈夫です」と返す。 「式の後、場所を移してお食事の会となります。  本日はこちらにお泊まりいただく予定でございますので、ごゆっくりお過ごしください」 予定通り、チャペルと館内で撮影をしてもらって、一度控え室に戻る。 その間に、参列者である両親にチャペルへ入ってもらう。 時間になり、チャペルの後ろ側にあたるドアのところで慧と待機していると、中から電子ピアノだろうか、パイプオルガンのような音で『結婚行進曲』が流れ始めた。 思わず慧と顔を見合わせ、微笑み合う。ベタだけど、かなり嬉しかった。 あぁ、本当に結婚式なんだな、と思う。 西さんが扉を開けて、「どうぞ、お進みください」と言った。 二人は明るい陽射しの中へと歩み始める。 杏里には父がいないので、最初から慧と一緒にバージンロードを歩くことにしたのだ。 慧の肘に手を掛け、もう一方の手にはブーケを持っている。 これまで着たことのない長いスカートに戸惑いながらも、ゆっくり歩いて祭壇へと向かう。 右側には慧のご両親が、左側には杏里の母が、拍手をしながら微笑んでいる。 こうして、双方の親に祝福されて一緒になれることが、どんなにありがたいことか。二人は幸せを噛みしめる。 両親の間を通り抜け、祭壇の前に着いた。
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