素敵な結婚式

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「それではこれから、結婚式を執り行います」 タイミング良く、斜め前に立った西さんが言った。 西さんの後ろに、アシスタントらしい女性が二人、電子ピアノのところにも一人、スタッフがいてくれる。 「本日は人前式でございます。まずは、お二人より皆さまの前で、誓いの言葉が述べられます」 参列者は両親のみだし、仰々しいことは止めよう、と次第はシンプルにしてあった。 チャペルなので、神父様をお願いしてキリスト教式にもできたのだけど、ここは人前式にして、双方の両親に証人になってもらう。 「私たちふたりは、本日ここで、皆さまの前で、夫婦になることを宣言いたします。  ここまで育てていただいたご恩を忘れず、楽しいことも苦しいことも、ふたりで分かち合い、支え合って、かけがえのないパートナーとして、共に歩んでいくことを誓います」 今日の日付とお互いの名前を名乗り終わると、再びピアノの音が流れ、天井から白い紙吹雪が舞ってきた。 どちらの両親も、微笑んで拍手してくれる。それが何より嬉しかった。 式場に預けてあった指輪が、ハート型のリングピローに乗せられて運ばれてきた。 先に慧が、細いリボンで止められていたそれを解き、杏里の左手を持ち上げると薬指に通す。 杏里はブーケをスタッフに託し、同じように慧の薬指にはめた。 「それではここで、ご両親よりお祝いのお言葉をいただきます」 西さんがそう言って、慧のご両親の方を向くと、お父さんが立ち上がった。 慧がタキシードを着なかったので、お父さんにも普通のスーツにしてもらった。 お母さんは上品なフォーマルスーツだ。 「慧、杏里さん、ご結婚おめでとう。  大切な人と出会えたことに感謝して、これからもお互いを大切に、温かい家庭をつくってください。ずっと応援しています」 お父さんがそう言って座ると、会場内の視線は杏里の母へと向かった。 グレーの落ち着いたスーツを着た母は、立ち上がると口を開いた。 「慧さん、杏里、ご結婚おめでとうございます。  多くの方に支えられ、今日の良き日を迎えられたことに、親として心からの感謝を申し上げます。  今の気持ちを忘れず、お互いを思いやる気持ちを大切にして、明るい家庭を築いていってください」 新郎新婦が深く頭を下げる。 「それではここで、新郎よりお礼のご挨拶があります」 改めて慧が、双方の両親にお礼を伝えることにしていた。 「今日、この日まで、私たち二人を慈しみ、育ててくださった両親に、心から感謝申し上げます。  出会いから遠距離恋愛だった僕らですが、こうしてやっと結婚までこぎ着けました。  これからはどんなときも二人で支え合い、距離は離れたとしても心は決して離さず、二人だけの道を歩いていきたいと思います。  未熟な二人ではありますが、どうぞ今後も末永くお付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします」 慧と一緒に杏里も頭を下げ、厳かな内に式は終了となるはずだった。 ところが、ピアノの前の女性が急に、髭ダンの『115万キロのフィルム』のイントロを弾き始めた。
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