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急に舞台横の扉が開き、人がどやどやと入ってきた。
壁に添って長い横断幕が広げられる。
え…? 何だろう、と慧と杏里が顔を見合わせていると、西さんが言った。
「当ホテルのスタッフより、新郎新婦とご家族へのサプライズプレゼントです…!」
驚いている間もなく、ホテルの制服を着たままのボーイさんや、カウンタースタッフの女性、厨房の白い服を着た人まで、次々に入ってきて、杏里と慧、双方の両親にバラを一輪ずつ渡し、「本日はおめでとうございます」と口々に挨拶をしていく。
横断幕には、敢えてなのか手書きで、『慧&杏里さん ご結婚おめでとう!』と大きく書かれ、ハートマークや水玉などがカラフルなマーカーで添え書きされている。
『ご結婚』と『おめでとう』の文字の間には、一回り小さい字で『支配人も』と茶目っ気いっぱいに書かれている。
曲が続く中、西さんが「持ち場を離れられないクルーもおりますが、当ホテルのスタッフ一同、新郎新婦とご両家の皆さまにお祝いの気持ちをお伝えしたい、とこのような演出をご用意させていただきました」とアナウンスしてくれる。
入ってきた総勢30人以上が、新郎新婦と両親を囲み、輪を作ると、一人の男性が周りを見渡し、口を開いた。
「新郎新婦、並びにご両家の皆さま、本日は誠におめでとうございます。
お二人の末永いお幸せと、ご両家の更なるご多幸をお祈りしまして、ホテルスタッフ一同で万歳三唱を贈らせていただきます」
その人が続いて「それでは皆さま、ご唱和をお願いいたします。ばんざ~い!」と言う
周りの人がみんなで、「万歳、万歳、万歳」と三唱してくれるのに、本人と家族は驚きながらも、軽く頭を下げて受けた。
そこにいた皆が笑顔で拍手を贈ってくれ、抜群のタイミングで西さんが「これで本日の挙式、すべての次第を終了いたします」とアナウンスして終わった。
慧の同僚だろうか、何人もの人が近寄り、「おめでとう」「良かったな」と握手したり抱き合ったりしている。
ふと見るとお父さんも笑顔で、スタッフから祝福の言葉を受けていた。
…二人とも、ホテルの皆さんに愛されているんだな。
杏里はそう思って嬉しくなった。
せっかくだから、と式場へ来て下さったホテルの皆さんと一緒に記念撮影をし、皆さんが退場されたあと、身内だけの写真も撮ってもらって、素敵な結婚式は終了した。
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