「書翰に線を引く」

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 家を飛び出したのだって、父という存在との距離を保ちたかったから。家に帰らなかったのは、前の旦那の真贋を見抜いた父の本当の姿を知るのが怖かったから。自分がそうであるはずだと引いた線とは違う父を見るのが怖かったのだ。前の旦那と別れたのだって、自分の中にある快適な生活というボーダーラインを越えてしまいそうになったから。感謝をしていた母にさえ。それだけじゃない娘だって、今の彼だって、私が引いたあらゆる線にしか過ぎない。  線引きは保身だったのだ。   遺品整理の手伝いを頼まれたのが三日目、有給の申請をしたのが昨日。もともと忌引になる予定だったので、あまり遠慮することなく休むことが出来た。  遺品整理の手伝いを了承したのは、娘として最後くらいけじめは必要だと思ったし、母しかいないのだから久し振りに実家に帰ってみたくなったのが半分、一線を越えない父の前で遺品整理という線引きをした上でものを捨てるという当てつけをしてやりたくなったのが半分。それとは別に、決着をつけなければいけないという思いがあったのも否定できない。 「仕事だったのにわざわざごめんね」
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