「書翰に線を引く」

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 この数日、忙しなく親戚が往来していたせいで、あまり片付けは進んでいないらしい。私は父の書斎の整理を買って出た。     私は遺品の中から私が想像する父を決定づける何かが出てくることを願っていた。私が引いた線が間違っていなかったと証明してくれる証拠を。ひどい父親であった確固たる証を。  あらかたの整理が終わり、机の引き出しに取り掛かった時だった。いくつかの書類の束から封筒を一つ見つけた。処分していいものか見極めるために差出人を確認しようと手に取る。  表を向けてすぐに封筒は父が書いたものだと気がついた。宛名が私の名前になっていたからだ。  心臓が急に早くなった。もういないはずの父が隣にいるような気分になる。ひんやりと冷えた指先で封筒の中に入っていた三つに折られた便箋を取り出し開いた。  日付がまず目に入る。母と再会した三年前に近い日付だ。それから締めの言葉が飛び込んできた。 『おめでとう』  母はあの日のことを父に話していたらしい。当たり前だ、線を引くのは父と私だけだから。こみ上げてくる感情を押し殺す。父が私に残した手紙だ。ちゃんと初めから読み返さなくてはいけない。
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