「書翰に線を引く」

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『母さんから聞いた。だから言っただろう』  そんな結びから始まった手紙には、いかに自分の真贋が正しかったかが書かれていた。私に手を出したことすら正当化して、しまいには締めの祝福の言葉だ。それが再婚や出産に対してだと最後まで期待した私がバカだった。  母に教えていた住所は、しかと封筒に書かれていた。けれど、切手は貼られていない。やはり父は一線を越えない人間だ。これを出す勇気はなかったらしい。血は逆らえない。  父が使っていただろう万年筆を手に取り、私は手紙に一本の線を引いた。インクはいつかの飛行機雲みたいに、紙にゆっくりと滲んで広がっていく。私はそれを真っ二つに引き裂いた。  床に落ちたその線を越えて部屋を後にするのは簡単なことだった。
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