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母から連絡があったのが六日前。もう二度と会わないと決めていた父の顔は、私の記憶の中のものよりも随分やつれ、白髪交じりですっかり弱りきっていた。衰弱した老人に憎たらしさを向けられるほど私の心は濁っていなかったようで、気がつけば父の最期を看取る娘らしい言葉を掛けてしまっていた。
息を引き取ったのは、私が病室に着いて二時間ほどしてから。主治医の人が、間に合って良かったですね、と朗らかな表情をしてきたことで、父の病状は回復の見込みがないほど悪かったのだと知った。
「会って後悔した?」
彼に聴かれたのが五日前。私はすぐに首を横に振った。
「意外と普通だったかな」
彼は娘のパジャマを畳みながら、不服でも満足でもない表情で頷く。自分も行くべきだったと思っているのかもしれない。けど、行っても無駄だった。結婚の挨拶は愚か、こちらの声さえすでに届かない状態だったから。そう告げれば、「熱を出してしまっていたしね」と、彼は優しさを溶け込ませた嘆息を溢した。
「ママぁ?」
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