「書翰に線を引く」

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 母はそう言って、細い指先でハンカチを私の前に突き出した。どうやら手持ちの金を包んでくれたらしい。 「今まで何の連絡もしなかったんだから、私にこれを貰う権利はないよ」  私が受け取りを渋れば、「私とも線を引くつもり?」と母は怪訝な顔を浮かべた。「お父さんに会いたくないのは分かるけど」  結局、この日のことを彼に伝えたのは、「お父さんはもう長くない」と六日前に母から連絡を貰ってからだった。母とはあれ以来、会っていない。携帯の番号は交換していたけれど、連絡はほとんどしなかった。 「あなたも線の向こう側に行かない人だった」  母の告げた冷たい言葉が、私は無意識のうちに自ら引いた線の向こう側に行くことを恐れていたに過ぎないのだと気づかせてくれた。
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