父の幻影

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 矢をつがえた村の人々に囲まれたリヒトの胸に生まれたのは「怒り」だった。  ばさり、ばさりと高度を落としていくジャグラに向かって放たれた矢が、リヒトをかすった。 「つ」  焼けるような痛みを頬に感じると同時に、リヒトははっきりと自分の胸に憎悪の灯が燃えていることを感じた。 「やめろ! 怪我人がいる」  大きな声で叫ぶと、リヒトはジャグラから滑り降りた。  ぐったりしたままのユリアを抱きかかえると不安げに首を揺らすジャグラに言った。 「ジャグラ。ごめんよ。おっかない人たちが来て、おまえに何かしたら嫌だから向こうに行ってくれ。悪いな」  ジャグラは首を傾げてリヒトを見つめた。
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