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友達?
確かに、目を細め、見つめ合うジャグラとユリアの間にはリヒトが入りこめないような何かがあるみたいだ。
何より、ドラゴンバードが人に慣れることがあるとは驚きだ。
「親とはぐれてピイピイ鳴いたおちびちゃんの頃に知り合ったの」
「いくら小さくてもドラゴンバードだぜ? 怖いとか気味悪いとか思わなかったの?」
「へえ。リヒトは恐いとか気味悪いとか思うんだ」
「オレは男だから平気だけど」
「男とか女とか、関係ないでしょ」
「ああ、まあ確かに。きみは並の男より強そうだ」
大きな瞳できっと睨まれてリヒトは「降参」というように両手をあげた。
「何だよ。怒るなよ。これは褒め言葉だぜ?」
「ああそう。本当は女は家で料理でも作って大人しくしていろって思っているんじゃないの?」
「まあ、普通はそうなのかもね」
「リヒトは違うの?」
「ジャグラに乗ったきみは救いの女神に見えたよ。女神に家で大人しくしてろなんて言えるかい?」
「きみ、じゃなくてユリアよ」
「ユリア」
正面から顔を見て名前を呼ぶと、ユリアはついと目をそらせた。
「リヒトはいったい、あんなところで何をやっていたの?」
「オレは鉱石掘りなんだ」
「鉱石掘り?」
「鉱脈を探って石を探すのさ。鋭く尖らせて武器にするもの、磨いてキラキラ光るものは身に付けるもの、いろいろな石を見つけて加工するんだ。こんなふうに」
リヒトは自分の首からネックレスを外すとユリアに見せた。
「きれい」
「この透明な石は何かの結晶だ。土の中からこのままの形で出てきたんだ。その欠片の角を少し削って細い革紐で編んだ中に入れた。こっちの青い石は、青色の部分だけを取り出して磨いたんだ」
「石もいろいろあるのね」
「ああ。色も、性質も、いろいろだ」
一心に石を見つめる伏せた睫毛の長さにどきりとする。
「ユリア。きみが石なら強くて透明な結晶石だな。磨かなくても最初から自分できらきら光っている」
そう言いながら指を伸ばして、ネックレスの透き通った輝きを持つ石を指した。
もう少し手を伸ばせば、ユリアの茶色い長い髪に触れることができる。
そう思うと心臓の鼓動が早くなった。 ためらう指を奮い立たせるようにそっとそっと上に伸ばしていく。
「あ」
はっとしたようにユリアは身を引き、リヒトの指は宙に浮かんだままになった。
「もう帰らなきゃ」
「これを」
リヒトはネックレスをユリアに押し付けた。
「受け取って。お礼だよ」
「でも」
リヒトは半ば強引にネックレスをユリアの首にかけた。
「乗って」
ユリアはビタースイートを食べ過ぎてくちばしを紫色に染めたジャグラにまたがった。
「上まで送るわ。ジャグラ、ゴー」
ユリアが言うと、ジャグラはゆっくりまばたきをして「ピウ」と小さくひとこえ鳴いてばさりと翼を広げた。
「すっげえ」
あっという間に谷底から空高く舞い上がったジャグラに、リヒトは歓声をあげた。
空は青く、紫がかったジャグラの皮膚は光に反射してキラキラ光る。
ばさあ、風を切る翼の音、たなびくユリアの長い髪。今度こそリヒトはその髪に触れることに成功する。
びくりと身をすくめたユリアの耳に「きれいな髪だね」とおよそガラでもないことを囁き、自分でも恥ずかしくなった。
後ろで良かった。きっと今、オレは首の後ろまで真っ赤になっているだろう、と火照った顔でリヒトは思う。
「ジャグラ、ストップ」
少しずつ地面が近くなる。
「急いで降りて。人が来る」
ユリアに背中を押され、リヒトは慌ててジャグラの背中から飛び降りた。
「また、会えるかな」
ユリアは答えない。
「また、会いたい」
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