父の幻影

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父の幻影

 トワが足を怪我して普通に歩けなくなってしまったのは、おそらく自分の父親が早くに死んだ事と関係があるのだろう。 はっきり聞いたことはないが、周りの空気でそれを感じていた。  まっすぐな黒い髪も、切れ長の目も、薄い唇も、大嫌いだ。  自分の姿をみるたびにみな「ああ、レオにそっくりだ」と囁く。  何を隠しているのだ、と思う。教えろと半泣きで迫ったこともある。  そうすると誰もが困った暗い顔になり、逃げるようにリヒトの前から去っていく。  父のせいだ。  父が何かしたせいで、オレはこんな目に遭うのだ。  何をしても父親の幻が邪魔をする。  物心ついたころにはもういなかった、ろくに記憶に残っていない父親を憎んで生きることになるなんてどんな罰だよと思う。  トワに教わった鉱石掘りの仕事は、リヒトの性分に合っていた。  ひとり、こつこつと石の層を探り、土を掘る。  孤独で土にまみれる作業だ。  だが、誰かの視線を気にしたり、愛想笑いをする必要もない。  ただ、土の声を聞きとればいい。  石でできた細長い棒で地脈を探り、地層の響きを聞きとる。  地層深くに眠る石を得るために火薬を仕掛け、爆破する時だけわくわくした。  全部木っ端みじんになればいい。  それでも自分にあらゆることを教えてくれたトワと、女手一つで育ててくれた母を思うと、馬鹿なことはできないと自分を戒めてきた。  だがもう母はいない。  トワには悪いが、自分のこれから先の人生にはもう何の意味もないような気がしていた。  だが、今日ひとつ、新しい希望をもらった。
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