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そのまなざしにじいっと見入っていると、眞龍寺成生はとつぜんこちらに首をめぐらせてきて「おい、香織」
「な、なに!」
とっさに壁に張りつかんばかりにして飛びのくと、また眞龍寺成生はげらげら笑う。「おまえ、どこをとっても飽きないな」
「あぁ、もうほんとにやだ」背もたれにしがみついて文句を言うと「なんだよ。いやなら親父んとこ行けよ」とひややかな返答がもどってくる。わたしはしばらく背もたれにしがみついたまま黙っていたが、やがて小声で「それもやだ」とつぶやいていた。
「よかった」
ふり返ると、眞龍寺成生はやけにうれしそうに笑っていた。あっけらかんと、まるで雲ひとつない青空みたいに。「もし実際親父んとこ行くって言われたら、たぶんメゲた」
「……それって」どういう意味?と問い質そうとしたとき、とつぜんドアがノックされた。わたしがふり向くまえに、眞龍寺成生が「なんだ?」と声を張りあげる。
「恐れ入ります、成生さま。寺庵下でございます」
ノックの主はわたしの父だった。
「香織を呼びに来たのか」
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