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夕食の席で明日の約束の話になると、案の定、母は欣喜雀躍して「やっぱりねぇ。そうなると思っていたわ。あなたはほんとうによくできた娘ですもの」とじぶんの手柄のように誇らしげに言った。「いいこと?御殿さまと成生さまにお気に召していただけるよう、きちんとふるまうんですよ。あなたならきっとだいじょうぶ」
けわしくなっている父の眉間に気づいているのかいないのか、母はまるで店だし直前の女郎をさとすやり手婆ァのようにとくとくと話をつづける。わたしは小女の面みたいにすましかえって「お母さま。わたしは本を読ませていただくだけよ。だれかにお気に召していただくために行くんじゃないわ」
「まぁ」母はわざとらしく驚いたふりをし「そんなわけはないでしょう?あなたみたいに神経質な子が、じぶんからわざわざ嫌いなひとに会いになんか行くもんですか」
わたしはぱちん!と大きな音をたてて箸をおき「わたしなんだか、すこし疲れたわ。もう今日は休ませていただきます」と席をたった。父が腰を浮かしかけるのを、母が制止する。いいからもう、あの子を寝かせてやってください。あした、不機嫌な顔で登城させるわけにいかないじゃないですか。
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