冬の蝶々

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わたしはざっとシャワーだけ浴びて自室にもどる。鏡台にすわって、よく混血と間違えられる細くて茶色い長い髪を、猪毛のブラシで梳きながら「やっぱり成生さまって、王子さまでいいんじゃないのかしら。だってお城に棲んでるんだもの。でも、シンデレラや白雪姫に出てくる、のっぺらぼうの王子さまとは、ずいぶん趣が違うけど」 かたり、とブラシをおき、鏡の中のじぶんの姿を、わたしは真正面からとらえる。そしてひややかなガラスの鏡面にふれ「成生さま、ほんとうにきれいって思ってるのかしら?」と呟いた。「もしそうなら、ほんのちょっとだけ、うれしいかも」 蛍光灯の紐をひき、部屋を星月の光だけにして、わたしはベッドに入る。そうしてしばらく、そのままじっとかたまりついて、とうとう、この数か月の禁忌を破ろうとする欲望に負けてしまう。いつの間にか覚えてしまったひとり遊び。すでに湿っている肉の扉に、わたしはそっと指を滑りこませる。
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