冬の蝶々

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ステンドグラスのはまった教室の扉をスライドさせると、時間が早いせいで教室にはまだ誰もいない。それが時間の経過とともにだんだんと増えていくけれど、わたしに話しかけてくる子はただのひとりもいない。わたしはただひたすら、始業まで文庫本を読み続ける。 からりと扉があいて、シャツにベスト、揃いのスラックスの、若い男が現れる。マーチでも流れているのかというような、スキップしているみたいに快活すぎる歩調で彼は教壇につき、わたし以外の人間はみな『さわやか』だと信じている嫌味な笑顔をたたえる。そして鼓膜も破れんばかりの大声で「おはよう!」とクラス中に挨拶をする。生徒の半分はみるみるうちに笑顔になって「菅野先生、おはようございます!」と返事をする。嘔吐をこらえているかのごとく黙りこくっているのは、わたしだけ。 菅野は出欠をとったあと、そのまま一時限目の授業に入る。生物。前回の授業で行われた小テストの結果が帰ってくる。「寺庵下」 ずるずる足を引きずるようにして教壇にたどり着くと、返された答案は当たり前のように満点だった。
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