冬の蝶々

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「今回もすばらしいよ、香織ちゃん」じぶんの玩弄物を愛でるようなねばっこい視線で、菅野はわたしの身体を執拗になめまわす。「今日も先生、職員室のほかの先生におほめをいただいたよ。香織ちゃんはほんとうに優秀だって」安っぽいニセモノの生クリームみたいな甘い脂っこい声音とともに、菅野は手招きで教壇のすぐ近くまでくるように指示してから、わたしのまえに屈みこみ「ぼくは鼻が高いよ」と口づけができそうなくらいに顔を寄せる。反射的にわたしは後ろに身をよじった。だけど、まわりに気づかれないようにするのは至難の業で、いやでも肌に息がふれてくる。「香織ちゃん、これからもみんなの模範になるように、がんばって」 眩暈と吐き気をこらえながら、わたしは何食わぬ態を装って、なんとかその場を逃れようとする。それでも菅野はまるで獲物をいたぶるように追いすがり「あぁ、今日はね、香織ちゃんにお願いがあるんだよ。放課後、理科室に来てもらっていいかな。明日の授業の支度を手伝ってほしいんだ」
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