冬の蝶々

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扉のところ。いつの間にか、ひとりの男が立っている。サマーリネンの長袖の上等な生成りのシャツに、カーキ色のコットンのタックパンツ。ちょっとだけ、わたしより身長が高い。まだ筋肉も骨もしっかりしていない、ひょろっとしたその体つきから言ったら、まだ少年といった年齢のはずなのに、男としか形容できない泰然自若とした雰囲気が、彼にはまとわりついていた。 そのうえ、ものすごいハンサム、とかではないけれど、『憎めない』というのを地で行く、人好きのする顔立ちをしている。男はその顔で、思いっきり笑いをこらえながら、わたしを見ていた。 じぶんでも真っ赤になっているのがわかったけど、なにか言ってやらなきゃ気が済まない。わたしは本を閉じ、机に置いたまま、椅子を降りてつかつか相手にあゆみ寄る。 「あなた、ノックくらいしたら?失礼にもほどがあるでしょ」 「ノック?」男はさも面白そうに復唱し「ノックねぇ。正直、ここに『案主』以外の人間がいるなんて、はじめてだからな」 「あんず?」
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