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「本音だからな。うそをつくには芸がいるが、本音なら芸はいらんだろ」
唖然。まさに唖然。唖然のひとこと。わたしはきっとまなじりをきつくして「あなたみたく口のうまいひと、見たことないわ」
それを聞いた男はさもおかしそうに含み笑って「そんなことぬけぬけ言ってると、おまえもいずれ虎になるぞ。じぶんより弁の立つ賢い人間なんて、この世に何万人だっているんだからな」
いつのまにか、血が出るほど強く、両手でこぶしを握っていた。それをちらりと目にとめて、男はつかつかとこちらに近寄ってくる。「怒ってるのか?」
それでも黙っていると、男は目の高さまで目をさげてきて「まぁそう怒るな。次はいつ来る?」
「よくわかんない。だって、ただお父さまに連れられてきただけだから」
「お父さま?だれだ?」
いったい、こんなぶしつけな見知らぬ男に、わたしはなにをぺらぺら話しているのかしら?でもどうしても、目が離せない。逃げ出すこともできない。だって逃げたらこの男、それこそ虎みたいに追っかけてきて、わたしをばりばり食べちゃいそうな気がする。
「おい。おまえの親父の名前は?」
「寺庵下、寺庵下恭三」
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