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七都の美術部の友人高村由惟子は時々、下校途中にわざわざ大回りをして、その洋館の前を通り、中を垣間見ているようだった。
レトロ建築が大好物という由惟子は、その館に関する新しい情報を目にすると決まって七都に報告してくる。まるで七都に報告するのが義務だと思っているようだった。たまたま七都と一緒に下校したおかげで、その素敵な洋館を発見できたという、彼女なりの恩義もあるらしい。
もっとも七都は、そんな洋館の情報など、どうでもよかった。どちらかというと、もっとメジャーな坂の上のほうの、異人館の情報とかが知りたかったのだが。
「あの家、珍しく窓に明かりが灯っていたよ」
「あそこにはね、金髪の外人さんが住んでるみたい」
「昨日はたくさんの人が中に入って行ったよ。パーティーかも」
由惟子の情報を総合すると、どうやらその洋館には金髪の背の高い外国人の男性が住んでいて、たまに訊ねてくる人々がいるらしい。
その訊ねてくるという人々も、やはり外国人が多いらしかった。そして、彼らはことごとく美形なのだという。
由惟子は頬を染めながら、七都に熱く語るのだった。あんな綺麗な外国人は映画の中だって見たことないだの、ちょっと吸血鬼っぽくて怪しげだけど、そこがまた素敵だの。
まさか七都自身が件の洋館の中に立ち入り、その住人と関わることになろうとは。
そして、そこが『向こう側の世界』に関係のあるところだとは。
安穏と洋館の前を通り過ぎていた頃の七都には、全く思いも寄らぬことだった。
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