泣き虫の話

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「――さっきから何ニヤニヤしてんだよ、だいぶキモいぞ」  熱が冷め切らないベッドの中で、迅くんは(いぶか)しげに僕の腫れた目元を撫でる。  その温かな指の感触で、僕は現実に引き戻された。 「えへへ、迅くんと初めてキスした時のこと思い出しちゃって」 「ったく、締まりのない顔すんな」  迅くんは笑いながら僕の頬をつねる。  そうは言っても、事後の余韻がそうさせるのだから仕方がない。僕の口元は緩みっぱなしだ。  喉を潤したいのに、起き上がるのがひどく億劫なほど、二人で(くる)まる布団の中は居心地が良い。 「ま、泣き虫のお前らしいけどな」 「……でも、最近は嬉しくて泣くことの方が多いよ」  泣き虫なのは認めるけど、悲しくて泣く事はかなり減ったと思う。特に、迅くんと同居を始めてからは。 「何言ってんだよ。さっきまで『イヤイヤ』って泣き散らかしてたのは誰だ?」  イタズラっぽく迅くんが笑う。 「あ、あれは――」 「『できないできない』ってビービー泣いてたよな、()()()で」 「……迅くんのいじわる」  (またが)れだとか、自分で動けだとか、今日はいつもしないことを指示されて、本当にどうしたらいいか分からなかったんだ。  堪らなく恥ずかしくて、気付いたら子どもみたいに泣いていた。  そして最終的には、こんなにも全身がカラカラになるまで激しく愛されてしまった。  迅くんは僕の顔をスリスリと撫で続けている。 「園田」 「……ん?」 「好きだよ」    ちゅっと腫れた目元に軽いキスが落ちてくる。  こういうところ、ずるいよなぁ。 「僕も、迅くん大好き」  ペンギンのぬいぐるみが、僕らの睦言(むつごと)を優しく見守っていた。 [泣き虫の話 終わり]
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