24人が本棚に入れています
本棚に追加
「――さっきから何ニヤニヤしてんだよ、だいぶキモいぞ」
熱が冷め切らないベッドの中で、迅くんは訝しげに僕の腫れた目元を撫でる。
その温かな指の感触で、僕は現実に引き戻された。
「えへへ、迅くんと初めてキスした時のこと思い出しちゃって」
「ったく、締まりのない顔すんな」
迅くんは笑いながら僕の頬をつねる。
そうは言っても、事後の余韻がそうさせるのだから仕方がない。僕の口元は緩みっぱなしだ。
喉を潤したいのに、起き上がるのがひどく億劫なほど、二人で包まる布団の中は居心地が良い。
「ま、泣き虫のお前らしいけどな」
「……でも、最近は嬉しくて泣くことの方が多いよ」
泣き虫なのは認めるけど、悲しくて泣く事はかなり減ったと思う。特に、迅くんと同居を始めてからは。
「何言ってんだよ。さっきまで『イヤイヤ』って泣き散らかしてたのは誰だ?」
イタズラっぽく迅くんが笑う。
「あ、あれは――」
「『できないできない』ってビービー泣いてたよな、俺の上で」
「……迅くんのいじわる」
跨れだとか、自分で動けだとか、今日はいつもしないことを指示されて、本当にどうしたらいいか分からなかったんだ。
堪らなく恥ずかしくて、気付いたら子どもみたいに泣いていた。
そして最終的には、こんなにも全身がカラカラになるまで激しく愛されてしまった。
迅くんは僕の顔をスリスリと撫で続けている。
「園田」
「……ん?」
「好きだよ」
ちゅっと腫れた目元に軽いキスが落ちてくる。
こういうところ、ずるいよなぁ。
「僕も、迅くん大好き」
ペンギンのぬいぐるみが、僕らの睦言を優しく見守っていた。
[泣き虫の話 終わり]
最初のコメントを投稿しよう!