泣き虫の話

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 ある日仕事を終えて帰宅すると、君が僕のアパートの部屋の前に立っていた。  一気に昂った感情を必死で抑え込もうとしたあの日の事は、今でも鮮明に覚えている。 「なんで連絡返さないんだよ」  少し怒っているような、悲しそうな、ホッとしているような、彼はそんな難しい表情をしていたと思う。  僕はすぐに返事ができなかった。  だって、言葉にしたら絶対に泣いてしまうから。 「……俺のこと嫌いになったのか」  そんなこと、ありえないよ。君を嫌いになるなんて。 「おい、なんか言えよ、園田(そのだ)」  優しい君の声も、僕にはキツかった。  下唇をグッと噛み、押し寄せる感情を飲み込む。 「……(じん)くん、今までありがとう」  よかった、涙はまだ堪えられる。それに、ちゃんと君の目を見て言えた。 「迅くんがいたから、これまで本当に楽しく過ごせてきたよ。長い間、僕なんかと一緒にいてくれて、どんなに救われたか……」  あ、ダメだ。  最後まで言い切る前に涙がじわじわと溜まってきた。  丁寧に言葉をつむぐ余裕もなく、早口になってしまう。 「でも、これ以上は迷惑かけたくないし、友達ではいられないから」  それじゃあ、と言って急いで解錠しドアノブに手をかけると、強い力でその手を掴まれた。 「どういうことだよ、ちゃんと説明しろよ!」  今まで聞いた中で一番大きな君の声にも、僕は(ひる)まなかった。  君の連絡先を消した時、それ相応の覚悟はしたんだ。  自分が傷つきたくないからなんてワガママな理由で、大切な――本当に大切な人との縁を切る僕の覚悟だ。  薄情で最低な奴だって思われてもいい。友達の幸せを願えないクソ野郎になる事の方が、僕には何倍も辛いから。  どんなに罵倒されたって、全てを受け入れられる。
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