泣き虫の話

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 力強く僕の手を引いて、君は手探りで部屋の明かりを点けた。  六畳のワンルームが隅々まで照らされる。 「なんだ、俺の事、……嫌いになってねーじゃん」  飾られている写真や置き物を見て、安心したように君は言った。  僕の部屋を彩るものは全部、君との思い出だ。  楽しそうにイルカショーを鑑賞する君の横顔にハッとする。イルカを撮るフリをしてこっそり君を撮っていたのがバレてしまった。  自分の頭の中を見られているようで恥ずかしい。  こんなの、君のことを全身で好きだと言っているのと同義だ。  もう正直に好きだと言おう。  不快な思いをさせてしまうのは心苦しい。でもそうでもしなきゃ、どこまでも優しい君は僕のことを嫌ってくれない。  一度、深く息を吐く。  ゆっくりと肺を膨らませ、再び息を吐き切る。  もう一度、鼻からおへその奥に空気を取り込むイメージに意識を集中させる。 「じ、く…っ、ひっ、…っう」  ……ダメだ。  どうしても勝手に呼吸が乱れてしまう。  頭の中では君への想いがこんなにも溢れているのに、たった一つも言葉にできないなんて。 「無理に喋らなくていい」  君は僕をベッドに座らせ、背中を優しくさする。
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