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俺は、耀の方へと向き直る。
鏡の床にその身体を横たえ、荒く息を吐く彼女の様を見遣る。
その姿は例えようも無く美しく、比類も無く淫らなものとして俺の眼に映った。
交わりを終え幾許も経たぬその身体には悦楽の熾火が残っているようであり、その様は俺の欲情を改めて掻立てつつも、抱きつつある決意を固めさせるものであった。
今、この刹那こそが、耀の美の盛りなのだと俺は改めて確信した。
俺は耀に向け、こう語り掛ける。
「耀よ…。
お前に、たっての頼みがあるのだ」と。
耀は床に身体を横たえたままで、その顔を緩やかに俺の方へと向ける。
その意識は半ば朦朧としたままなのであろうか、黒々たる瞳は胡乱な色を帯びていた。
然れど、その顔には溢れんばかりの喜色を湛えてもいた。
喘ぎつつ、歓喜にて上擦ったかの如き声音にて耀はこう言葉を返す。
「何で、ございましょうか…?
この耀、若様の御為ならば…、何なりとも致します!
何なりと、何なりとも、この耀にお申し付け下さいませ!
若様がこの耀に何かをお求めになられること、何かをお命じになること。
それこそがこの耀にとって、何者にも替え難き悦びにて御座います!
若様に必要とされることこそが、耀がこの世に在る意味なので御座います!」
そして耀は、その片腕をゆっくりと俺の方へと差し伸ばしてきた。
俺に向けて差し出された耀の掌は、細かな震えを帯びていた。
その様からは、彼女が抱く歓喜がしっとりと伝わり来るかのようだった。
俺は手を伸ばし、耀の掌を強く握り締める。
耀は息を呑み、そして俺の掌を握り返す。
その掌はじっとりと汗ばんでいて、滾らんばかりの熱を湛えていた。
俺の掌を握るその力は驚くほどに強く、俺への執心が如実に伺えるようだった。
ひしひしと伝わり来る耀の執着は、俺の心をより一層固めさせる。
心を決めた俺は、耀に向けてこう語り掛ける。
黒々とした、虚に満ちたその瞳を覗き込みながら。
「耀よ…。
今、此処にて死んでくれぬか?」と。
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