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俺の言葉を耳にした刹那、耀の顔には驚きと共に呆けたかの如き喜色が拡がって行った。
そして、耀は息急き切ったかの如き調子にてこう口にする。
「嗚呼、若様!
若様が斯様なことをお命じになれるのは、この耀のみにて御座いましょう!」
俺は言葉を返す事無く、耀の掌を強く握り締める。
斯様な頼みなど、この耀以外の何者にも出来る訳も無く、そして為す積もりなど更々無いのだ。
この耀だからこその頼みであるのだ。
彼女が美しき故の頼みであり、その美が損なわれることを怖れて止まぬが故の頼みでもあるのだ。
耀も応えるかの如くして俺の掌を強く握り返す。
そして、その顔を傾けて俺の顔へと視線を注ぐ。
それは物言いたげで、そして何処か奇妙な熱を纏ったかの如き視線だった。
俺は耀を見詰め返し、小さく頷いて言葉を促す。
耀は、如何にも恐る恐るといった調子にて言葉を発する。
「若様…。
斯様な事を申し上げるのは甚だ不躾かと承知はしておりますが…
この耀からもお願いが御座います」と。
「何でも良い、申してみよ」と、俺は頷き乍ら言葉を返す。
頼み事をするなど、一体如何なる事なのだろうかと期待と怖れが相半ばしたかの如き感慨が俺の胸を満たし始める。
暫しの躊躇いの後、耀はこう口にする。
「この耀、若様の言い付けで御座いましたら喜んで命を捨てまする。
然れど…、然れど…」
そして、耀の両方の眼から涙が溢れ出し始める。
嗚咽混じりの声にて、耀は俺に向けて語り掛ける。
「この耀が若様のお側から居なくなった後に他の女が現れ、そして若様の寵を受けるやも知れぬと考えると、もう…、口惜しゅうて妬ましゅうてなりませぬ。
若様の御心は、例えお側に居なくなっても、この耀のみに向けて頂きたいのです。
この耀、若様の御心の儘、今宵に命を捨てまする。
それが若様のお望みならば喜んで為します。
然れど…、然れど…、若様の寵が他の下らぬ女どもに向けられるやも知れぬと思うと、それが恐ろしくて口惜しゅうて妬ましゅうてなりませぬ…」
耀の掌を握り締めた俺は、嗚咽を漏らす彼女に向け、こう語り掛ける。
「耀よ、俺はお前程に美しき女子を知らぬのだ。
俺がこれから生き続けようとも、お前に勝る女子と相見えることなど在りはせぬのだ。
耀よ、今のお前は誰よりも、何者よりも美しい。
この世に在る如何なる女子など塵芥の如く思える程に、今のお前は美しいのだ。
それ故、それ故に…。
お前の稀有なる美が、齢を経る毎に損なわれ行くことが恐ろしくて恐ろしくてならぬのだ。
お前の美が老い衰える様を目にすることが、俺にとっては怖くて恐ろしくて、そして悲しくてならぬのだ」と。
俺の言葉も何時しか嗚咽混じりのものとなっていた。
この俺とて、耀を喪うのは悲しくてならぬのだ。
耀を愛でられぬまま生き続けること、それは恐らく虚しき日々であるのだろう。
然れど、この耀の美が損なわれ行く様を目にし続けることなど耐え難き苦難であるのだ。
俺の言葉を耳にした耀は蹌踉めきつつも何とかその身体を起こし、俺の胸元へと撓垂れ掛かって来た。
俺と耀とはひしと抱き締め合う。
そして、耀は俺の耳元にて、恰も熱に魘されたかの如くこう囁いた。
「嗚呼、嗚呼!!!
若様に斯様なまでに思って頂けるとは、この耀は果報者にて御座います。
斯様に嬉しく、これ程までに晴れがましきこと、この耀の生において初めてで御座います!
疎まれ怖れられ生きてきたこの耀にとって、若様の寵は何物にも替え難きものにて御座います!」と。
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