靴下の中の戦争

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 諸君、復活の時は来た。  屈辱に耐え忍び、明日知らぬ日々を過ごす必要はなくなった。ようやく捲土重来を果たす日が来たのだ。  知っての通り、我が国は隆盛を極めるその度に災厄に襲われてきた。  全てを飲み込む洪水と、その後に残る()えた(むせ)かえるような匂いを忘れたことなど一度もない。父も、母も、弟も皆あの災厄で死んだ。友を肉親を失った悲しみは皆も同じことだろう。だがその悲しみは我らに強さを与えてくれた。この地を再び取り戻すための確固たる決意を、強固たる結束を与えてくれた。  我らはまだ、戦える。  もう一度言おう。復活の時は来た。手を取り合え。我が国が再び隆盛を取り戻すのだ。  ここまで来るのに、実に長い時間がかかった。非情な現実は記憶に、苦痛は記録に。それほどの時が経ち、災厄は過去となってしまった。だが言い換えるならば、あの災厄に恐れ抱かぬ勇敢な戦士たちが集ったとも言える。  諸君、繁殖だ。子孫を、同志を、仲間を増やすのだ。戦争とは数なのだ。  戦いは明日の未明から始まる。  奇しくも先の災厄に見舞われたのと同じ月。  恐れるな。  この梅雨の長雨は必ずや我らに好機をもたらしてくれる。冬の乾燥の間に油断している愚か者に、我らの力を見せつけてやるのだ。  靴下の中に栄光を。  靴下の中に繁栄を。  靴下の中に発疹を。  ◇  そんな妄想をしながら、俺はまた水虫と戦う。
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