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授業が終わり、帰り支度をするミチユキ。
そこに、ヒビキが声をかける。
「僕、今日も急がなきゃなんだ。じゃあね、また明日。」
「ああ、また明日。」
走るヒビキの背中を見るミチユキ。
ヒビキの紫の耳飾りが…
落ちる。
カシャン。
音が鳴る。
ヒビキは気づかずに去る。
ミチユキが慌てて拾う。
「おい、ヒビキ!落としたぞっ!!」
教室の外に出ても、ヒビキの姿はなかった。
「…しょうがないな。」
ヒビキの耳飾りを鞄のポケットに入れる。
鞄を持ち、下校する。
いつもの通学路。
いつも通り歩いていると、急に霧がかかってきた。
不思議に思っていると、前に人影。
目を凝らしてみると、俯いたツキの姿。
ミチユキが声をかける。
「どうしたんだ?ツキ。こんなところで。教会から結構距離あるのに…。」
近づいていくと、ツキがバッと顔を上げる。
その表情は、泣いていた。
「どっ、どうしたんだ?ツキ…。」
ミチユキは気づく、ツキの手に包丁が握ってあることに。
「うっ、うぉぉぉおおお!!!!」
両手で持った包丁をミチユキに向け、走ってくるツキ。
ミチユキは咄嗟に避ける。
「どうしたんだよツキ、どうして、」
「うっ、うるさいうるさいうるさい!!」
首を振りながら涙を地面に落とす。
嗚咽混じりのツキの言葉が響く。
霧の中、見えるのはツキだけだった。
「僕が…僕がお前を殺せば!ヒナは助かるんだ!!お前の、お前のせい、で、うっ、、」
「ツキ、どうしたんだツキ!!ヒナに何かあったのか!?」
「とぼけるなっ!!ヒナは今日の朝から、変なんだ!!お前がヒナの傷を治した時から!!」
「治した時?俺が?俺はヒナの傷なんて治してない!」
「嘘だっ、嘘だ嘘だ嘘だ!!!僕は見たんだ!!お前が傷を治して門に戻るところを!!」
「門?」
ミチユキは思い出す。
今朝のことを、今朝の男性のことを、夢のことを。
全て。
呆気に取られていると、ツキが包丁を持ち直す。
「目が覚めたヒナが言ったんだ!お前がヒナに病気をかけたんだって、病気を治すにはお前を殺すしかないって!!」
「病気?ヒナは、なんの病気にかかってるんだ!?ヒナは…」
「黙れ黙れ黙れー!!!」
またミチユキに突進していくツキ。
ミチユキは、動揺して動けなかった。
「やばいっ、刺されっ…。」
カキンッ、
咄嗟に目をつぶったミチユキが恐る恐る目を開けると、ツキがうつ伏せに倒れていた。
「ツキッ!!」
「待ちなさい。」
駆け寄ろうとしたミチユキを誰かが止める。
見ると、今朝の夢に見たエメラルドグリーンの瞳を持つ男性がツキを見下ろしていた。
「お前、今朝のっ、」
「シッ、静かに。……来る。」
一段と濃くなった霧の中、月の後ろからまた一人の影が見えた。
男性の表情がより一層険しくなる。
しばらく見ていると、段々とはっきりしてきた。
それがすぐにヒナだと言うことはわかった。
無表情で、うつ伏せになっているツキを仰向けにし、顔を触る。
ミチユキは動揺してただただ叫ぶことしか出来なかった。
「ヒナっ、ヒナ!!どうしたっ、」
「やめるんだ!彼女は君の知っているヒナでは無い!!」
ヒナは、ゆっくりとツキの顔を撫でる。
「…愛しき我が妹。まだ記憶が覚めぬゆえに、こんな目に。」
ヒナからは決して考えられない言葉が、聞こえた。
それも、悲しみと憎しみが混ざった感情とともに。
「今はまだゆっくりと休むがいい。ここは兄が力を出そう。」
ゆっくりとツキを寝かせ、指を鳴らす。
すると、ツキの姿が消えた。
ツキがいた地面を見つめていたヒナがミチユキを見る。
ヒナはゆっくりとした足取りで近づく。
ミチユキが固まっていると、男性が声をかける。
「彼に何の用ですか?」
ヒナはその問いかけには答えず、歩いて近づいてくる。
その表情は、いつもの表情豊かなヒナとは真反対の、全くの無表情だった。
静かに近づいてくるヒナを警戒するように男性は手に力を込めていた。
ミチユキは何が起こっているのかわからなかった。
「逃げろ。」
男性がミチユキに小声で告げる。
ミチユキは体が硬直してしまい、全く動けなかった。
声を発するのもやっとだった。
「汝も、記憶持ちか。そこをどいて欲しいのだが、彼とはどんな関係なのかな?」
ヒナは相変わらずの無表情で問いかけてくる。
男性のエメラルドグリーンの瞳が揺れる。
「…お嬢さん、いや、貴方のお名前は?」
そこでヒナの足が止まった。
「悪魔共に名乗る名など、あいにくもちあわせていないのだ。」
「悪魔…?」
ミチユキが呟く。
男性を見ていたヒナがミチユキを見る。
「まさか、お前が記憶を取り戻していないとわな。」
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