拾士

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「それが本当なら、みんな憧れるでしょうね。強くなれると信じ込んで、本当に強くなれるんですから。一つの理想ですよね」 「馬鹿な。何が理想なもんか。いいかい? 彼が強いのは彼が狂ってるからなんだぜ? 一般社会にはまったくなじめず、一般社会から拒絶された存在だ。たぶん生きてても全然楽しくないと思うぜ。けど彼の場合、狂ってるからそれすらも分からない。狂ってるから何が楽しいのかも分からず、狂ってるから何が辛いのかも分からない。無間地獄だ。周囲を理解しようとは思わないし、理解してもらおうともしない。彼にとって世界とは、芝居の書き割りみたいなもんなのさ。現実感がないんだよ。彼は永遠に、死ぬまで一人芝居を演じ続けるんだよ。観客がいくらブーイングしてもおかまいなしに。そもそも彼は観客の ために演じてない。自分のためだ。究極の一人芝居だよ」  般虎荘が見えてきた。相変わらず門は開けっぱなし。  昼間は玄関さえも開けっぱなしである。  庭というか敷地の空きスペースには、恋二郎が金を出した、凱の新しいバイクが停めてあった。  本人はヒーローショーのツアー中なので。  カバーがかけてあって中身は見えない。
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