序章

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序章

 もう寝なければいけない時間だが、筆を持つ手が止まらない。  灯明皿の光は風が吹くと揺れて、字を書くには心許ないが、勝悟の心には揺れない何かがしっかりと根を下ろしていた。  情熱、いや責任感か?  それを表すぴったりとした言葉が思い浮かばない。  もしかしたら欲望という言葉が適切なのかもしれない。  この戦国の世に、民に主権を与える自由民主主義国家を建設する。  それはこの国の民は誰も望んでないことかもしれない。  この国が次の代表を、選挙で選ばなければならなくなったとき、民の中には勝悟と仲間たちが勝手に責任を押しつけたと、憤る者がいるかもしれない。  形の上では、十人の議員が話し合って新国家の法を定めているが、ほとんどが勝悟の草案で、反対する者は悉く勝悟が論破して進めている。  これはもう勝悟自身の欲望と言って差し支えないだろう。  思えば、二一世紀まで進んだ世界からこの世界に時限漂流した後、数々の幸運に恵まれ続けてきた。  おそらく自分の身に起きたことが自然現象だとすれば、過去にも何十年いや何百年に一度は起きたことがあるはずだ。  しかし、自分のような出会いの幸運に恵まれなければ、単なる物知り人もしくは変人の類いの一人として、平凡な生涯を終えるかあるいは早々に死んでしまうかもしれない。
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