序章

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 だが、山中小助に死んだ長男の代わりとして愛され、跡部勝資に未来で蓄積してきた見識を認められ、武田信玄に献策を採用される幸運が勝悟にはあった。  残念ながら武田家の一員として、天下を取る夢は潰えたが、ここで知り合った本当の天才今川氏真と協力して、全ての人々がそれぞれの夢に向かって活き活きと暮らす、理想国家の創設という夢は残った。  頭の中には、夜明けの朝日が差し込むように、次々に新しい国家の姿が浮かんでくる。  屋外でジーと鳴いていたクビキリギリスの声は、もう勝悟の耳には届かない。  勝悟は今夜もまた、夜を徹して草案作りに没頭する。 「織田はもう、力で我が国を制することを諦めたみたいであるな」  信長から勝悟宛に届いた講和を求める書状を読んで、氏真は満足そうに微笑んだ。  他の議員たちも、ホッとした心持ちで肩の力が抜けている。 「信長は常に革新を目指す男だから、我が国の国是と政治形態には当然興味があるはずだ。彼の者の目は既に日の本から敵が消えた後のことを考えているはず。畿内、中国、東海甲信越の一部、そしてこれから攻め取るであろう四国と、織田の直轄領は広大になる。他国は我が国のように不戦を宣言して、友好関係を結ぶか従属するかしかなくなるだろう」
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