第3話 鬼の素顔

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「早速じゃっどん、義弘どんが皆に会おごたっち申されちょっ。もうすぐ肥後で戦が始まっで、急がれちょっごたっ。疲れちょっところ申し訳なかが、義弘どんの屋敷に向かって欲しか」 「おお、義弘殿に会えるんか。ありがたい。すぐに参ろ」  盛敦の申し出に、助左衛門は二つ返事で承諾した。  健はこれから鬼と呼ばれた男に会うと聞いて、緊張してきた。  太郎はそうでもないみたいだが、愼と甚左もぐっと顔が強ばっている。  意外なことに碧はともかく春瑠が普通だった。  鬼島津の屋敷は内城の城下にあった。島津当主の義久は城内に籠もり気味らしいが、義弘は客も多く、皆を集めてこの家で酒を飲むことも多いらしい。  屋敷は駿府の家々に比べると、かなり質素な造りだったが、柱などは太くて頑丈そうで、大きな家なのでたくさんの人が集まれそうだった。  健たちが通された部屋は畳ではなく板張りだった。板の上にゴザが引いてある。部屋には入り口が四方にあり、上座が分かりにくい造りになっているので、仕方がなく入ってすぐの場所に腰を下ろした。  駿府からの帯同者の中で唯一の大人である源五郎は、城下に入ったときから落ち着かない風情だ。  武田にも剛勇無双の士は多いが、火口から煙を上らせるあの桜島の雰囲気と、町ゆく人の質素な雰囲気が、鬼島津のイメージをより一層異形な者に膨らませる。
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