序章

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 途中で一人黙々と棒を振る少年を見た。月明かりに照らされる顔は真剣そのもので、提灯を下げた勝悟たちが近づいても、気を奪われることもなく集中していた。  その姿を見て、勝悟は前の世界で剣道に打ち込み、日夜竹刀を振って鍛錬した日々を思い出した。 「いいものだなぁ。子供が何かに打ち込む姿は」 「あの子の振りには邪心がありませんね。いい振りだ」  梨音も感じるものがあるのか、ひとしきり感心していた。  束の間、その少年の姿に目を奪われたが、家路を急ごうと再び歩みを進めようとしたとき、急に風が強まり砂埃が舞った。  思わず目を閉じると、次の瞬間身体が浮き上がるような感触を覚えた。  この世界に来たときに感じた重力がふっと途切れた感じだ。  目を開けると、夜空に月の三倍はありそうな赤い色をした彗星がゆっくりと動いていた。  彗星は西から現れ、東に向かっている。  勝悟は強風の中で足を踏ん張って彗星を見上げていると、ちょうど真上にきたとき、身体に電気を帯びたような感じがした。  すぐ横の梨音を見ると、勝悟よりも強く感じているのか、頭を押さえて身体を震わせていた。
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