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 瞳が救出されてから一か月後の日曜日、男と女が、本当に瞳の家を訪ねてくることになった。  瞳は、どうしても、二人に会うのが嫌だった。が、両親にその理由をどう伝えればいいか分からず、なにも言えないまま当日を迎えた。  瞳は、朝から頭痛がすると嘘をついた。  両親は、瞳を疑ったりしなかった。青い顔色で床に伏せる娘を見て、心配し、気遣った。そして、 「今日は、高木さんたちが来るけど、体調が良くないなら無理に顔を出さなくていい」 と言ってくれた。  昼前、約束の時間より五分早く、男と女が到着した。  瞳は、二階の自室で、じっと息をひそめながら、玄関先でのやり取りをうかがっていた。  社交辞令的な挨拶に続き、男がこう言うのが聞こえた。 「ところで、瞳ちゃんは?」  瞳が、感謝をこめて自分たちを出迎えるのは当然なのに、なぜいないのか? といったニュアンスがあるように、瞳には聞こえた。
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