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二時間程度滞在すると、男と女は帰っていった。
二人がいなくなると、瞳は、ようやく部屋から顔を出した。昼食を食べていなかったので、空腹だった。
キッチンへ行き、冷蔵庫を開けると、見慣れないタッパーが目に飛び込んできた。なにかと思って蓋を開くと、輪切りにされた太巻きが数個、タッパーの端に並んでいた。
数秒ののち、瞳は、それが、男が作り、持参したものであることを察した。
あまりのおぞましさに、考えるよりも先に体が動いた。瞳は、タッパーごと、太巻きをゴミ箱に投げ捨てた。
「瞳?」
呼ばれて、瞳ははっとした。振り返ると、母親が驚いた表情でこちらを見ていた。
瞳は、ふにゃりと顔面を崩すと、その場にしゃがみこみ、身も世もなく泣いた。
母親は、唖然としながらも、すぐに瞳のそばに走り寄り、娘の背を撫でた。
瞳の泣き声を聞きつけ、父親もキッチンに姿を見せた。
「いったいどうした?」
と、心配そのものの声で娘に話しかける。
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