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「おや、今帰りかい?」
「うん! 今帰ってきたところ!」
学校からの帰り道の商店街で顔見知りの八百屋のおばさんに声を掛けられて私は振り返りながら答える。走っていた足を止めてその場で足踏みする。
「あら。急いでいるみたいだけど何かあるの?」
待ってましたとばかりに私は答える。
「今日、私の誕生日なんだ! お父さんとお家で誕生日会するんだ!」
「あら。そうなの? 誕生日おめでとう。いくつになったの?」
「七歳!」
私とおばさんが話しているとぞろぞろと商店街の人たちが集まってきた。
「ゆかちゃん今日誕生日か。おめでとう!」
「これ持ってきな」
「誕生日プレゼントだ」
次々に手の中に野菜やお肉、お菓子が押し込まれる。
「ほら、あんたたちいい加減にしな! ゆかちゃんが困ってるだろ!」
八百屋のおばさんが集まってきた人たちを諫める。
「大丈夫ですよ。むしろ皆お祝いしてくれて嬉しいです!」
私が言うと皆がにこりと笑う。
「ゆかちゃんはしっかりしているねぇ」と感心する声が聞こえてくる。
「お母さんが亡くなって半年になるのかね」八百屋のおばさんが小さく呟くのが聞こえてしまった。私に聞かせるつもりはなかったのだろう。すぐに口元を手で抑えて私に向き直る。
「お父さんと二人で寂しくないかい?」
八百屋のおばさんがしゃがんで聞いてくる。わざわざ視点を合わせて話してくれるこの人の事が私は好きだった。商店街にいる人たちは皆良い人たちばかりで私は皆の事が大好きだった。
「ううん。みんなが居てくれるし、お父さんもいてくれるから寂しくなんてないよ!」
「嬉しい事いってくれるじゃないか! これも持ってけ!」
おもちゃ屋のおじさんが小さなクマのぬいぐるみを手渡してくれる。
「ありがとう! あ、そろそろお父さんが帰ってくると思うから行かないと。お父さん今日は私の誕生日の為にお仕事早く終わらせて帰って来てくれるんだ!」
私が満面の笑みを浮かべて言うと皆が笑った。
「早く帰ってあげな」
「うん!」
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