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豚と根菜の味噌スープご飯と捨てられたもの ①
俺は自分のベッドに起き上がると、ぶるりと震えながら、パジャマの袖を強くさすった。
昨夜は酔っ払って窓を開けたまま寝てしまったようだ。
日中、初夏並みだった陽気も、一夜のうちに季節が逆戻りしてしまっていたようで、部屋の中まで霜が降りるのではないか、という程冷え込んでいる。
俺は「よっこいしょ」と小さく呟くと、打ち捨ててあった厚手のカーディガンに袖を通しながらキッチンに向かう。
エアコンのボタンをピッと押すと、暫くの無言の後、吹出口から頼りない温風が吐き出されてくる。
そして、俺は水切りカゴに伏せてあったグラスを手にすると、銀色に鈍く輝く水道のレバーを押し上げた。
思わず全開にしてしまった蛇口からは、外気で冷やされた水道水が勢いよく飛び出してきて、カーディガンの袖とシンクの周りを水浸しにしていった。
俺は湿った舌打ちを返すと、勢いの割に僅かしかグラスに溜まっていないその水を、喉の奥に流し込んだ。
不味い……。
飲用にはペットボトルの水を飲むように言われていたけれど、冷蔵庫を開けるのすら面倒くさいのだ。
再び周りをビシャビシャにしながらグラスに水を回しかけると、水切りカゴの上にそのままそれを伏せる。
シンクの脇にかけられていたタオルで腕を拭きながら、何だか違和感を感じて俺は部屋の中に視線を送った。
去年買ったばかりの小さなダイニングテーブルの上には、昨日の晩に飲んだチューハイの缶がそのまま転がっている。
そして白い皿の上には……、鈴の晩飯がそのままの状態で残されていた。
「……鈴?」
声をかけてみるが返事はない。
ずっと頭の周りをモヤモヤと覆っていた眠気が一気に吹き飛んでいく。
昨日アルコールを久しぶりに摂った時の動悸とはまた違う脈拍が全身を駆け巡っていく。
「……鈴!」
慌てて乱雑な家の中を探してみるが、鈴の姿はどこにも見当たらなかった。
玄関に出しっぱなしになっていたサンダルに足を突っ込むとドアノブに手をかける。
そのまま外に飛び出そうとしてから、俺はふと腕を下ろした。
そうだった……。
俺達はもう一緒に暮らす事はできないのだ。
追いかけたところで何になる。
俺は寝室の扉を開けると、さっきまで自分が寝ていたベッドに乱暴に腰を下ろす。
水色のシーツは冷んやりしていて、濡れたままのカーディガンの体を再び震わせた。
そう、俺は何もしない、という選択をしたのだ。
窓から流れ込んでくる乾いた風が、二日酔いの体をキリキリと締め上げてくるようだった。
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