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豚と根菜の味噌スープご飯と捨てられたもの ②
耳を突き刺さす、激しく掻き鳴らされるギターの音。
延々とループするかのように繰り返されていく重低音のリズム。
力強く鳴らされるドラムは、自分の胸で拍動し続ける心臓の音のようだ。
そしてその人は、客席に視線を全く向ける事なく呟くように歌っていたかと思うと、突如狂ったようにシャウトした。
時折映されるフロアはすし詰め状態で、ついこの間まで毎日のように乗っていた通勤電車と違うのは、そこを埋め尽くしているのが熱く沸き立つオーディエンスだという事だ。
彼らは思い思いに場を満たす音に身を委ね、体を揺すり、叫び、拳を上げていた。
20年近くも前の映像だったけれど、そこを満たす熱気はスマホの画面越しからも手に取るように感じられる。
——sound or noise
瀬尾 奏一朗(G.Vo)福澤 和成(Ba)石黒 直忠(Dr)からなる日本のオルタナティブロックバンド。
略称、サウノイ。
ライブこそが自分達の唯一の活動の場とし、メディアへの露出は殆どない。
瀬尾の突然の事故死により活動休止。——
動画配信サイトで検索してみても、数本のMVがあるのみで、他の映像はあまり残っていない。
そのMVも基本ライブシーンがベースになっていて、サウノイがいかにライブを大切にしていたかが伝わってくる。
響子さんの旦那さんというだけで、何となくもっと穏やかな感じを想像していた。
響子さんも昔、バンドでドラムを叩いていたらしいけれど、彼女もこんな激しい音楽をやっていたのだろうか。
とてもそんな姿は想像がつかない……。
そして……、「音の食堂」で鳴らされる佑弦さんの音は、どこか切なさの残る優しいものだけど、サウノイのファンだという彼の、バンドで奏でる音はどんなものなんだろう……。
目を細めて馬鹿にしたように向けられる佑弦さんの視線を思い出して、私はスマホをタップする手を止めた。
「別に興味なんてないし……」
古いアパートの部屋で、私は誰に言うでもなくそう呟いた。
代わりにもう一つ気になっていたワードを入力してみる。
スマホの小さな画面に表示されているのは、どこを見ているのかわからない二つの黒い瞳と、ポケッと開けられた小さな口を持つ小動物。
「こんなの全然似てない!……くもない……けど……」
普段自分の姿を鏡に映してみる時は、メイクをする時や服のコーデを確認する時だ。
自分でも「映すぞ!」って思っているから、真剣に鏡を見てる。
でも時々、街中を歩いている時なんかに、よく磨かれたショーウィンドウだとか、売り場の姿見とかに映り込んでいる、ぽーっとした自分の顔を見つけてショックを受ける事があるのだ。
頭の中は、「早く戻って報告書作らなきゃ」とか「晩御飯急いで作らなきゃ」とか、結構真剣なのに……。
それらに映し出される姿は、正に「リッスー」だった。
それにしても、特産品のりんごを頭に載せただけ、っていうデザインは安直過ぎるんじゃないかな。
だから、105位どまりなんじゃないかと思う……。
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