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いや、響子さんが忘れ物を取りに帰ってきてる、という可能性だってある。
でも、本当に泥棒だったら?
気がついていたくせに、このまま歩き去ってしまったら、きっと後から後悔するだろう。
私は恐る恐る、刈り込まれた枝の間からその先を覗き込んでみる。
響子さん宅のリビングは、表通りからは見え難い向きに大きなガラス窓が作られている。
その先には私達の住んでいるアパートがあるけれど、みんな仕事や学校へ行ってしまっていて、平日の昼間は人気がない。
このまま泥棒と鉢合わせしてしまったら、と思うと足がすくむ。
ツーっと嫌な汗が背中の辺りを流れていく。
私が躊躇していると、それまで小さく揺れ動いていたカーテンが、突如大きく翻った。
私は「ヒィッ!」と声を上げて素早く飛び退いた。
瞬間、白いカーテンの裾の方に転がり出てきたものは……。
白と黒の毛の塊。
「へっ?」
白と黒の毛の塊は伸び上がると、ピンクの肉球をガラスに押し付けながらカリカリとその先の方で窓を引っ掻いた。
これは……、白黒の、猫?
でも響子さんが猫を飼っているなんて聞いた事なかったけど……。
私が思わず近づいて行くと、今度は明らかに人と思われる影が、繊細なレースでできたカーテンの向こうに浮かび上がった。
「ぎゃあ!」
尻餅をついて無様に転がっている私の姿を、ガラスの向こう側から冷ややかな眼差しで見下ろしているのは……。
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