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豚と根菜の味噌スープご飯と捨てられたもの ③
頭上を遮る緑色の葉が、ザワザワと気怠げに揺れている。
その隙間から柔らかな光がチラチラとこぼれ落ちてきて、乾いた地面に複雑な模様を作り出していた。
もし鈴代が一緒だったのなら、今度の週末あたり、近所の公園にお花見に行こうだとかなんだとか、彼女のお喋りに付き合いながら賑やかなひと時を過ごしていただろう。
けれど響ヶ町神社の境内には人影もなく、その先にある大通りを走る車の音だけが静かに響いている。
鈴代は街中にある小さな神社仏閣を巡るのが趣味だった。信仰心というよりも、植物に囲まれた静かな境内をゆっくりと散策し、その後、周辺の隠れ家的な飲食店に立ち寄るのが彼女の楽しみだった。
いや、後者の方が7・8割を占めていたのだろうなと思う。
今日は散策にはちょうど良い気温かと思っていたけれど、やはり長く歩いていると、少し汗ばんでくる。
俺は鞄からペットボトルの麦茶を取り出すと、ゴクゴクと音を立ててそれを喉に流し込んだ。
鞄に入れっぱなしだった麦茶はすっかり温くなってしまっていたが、喉の渇きを潤すのにはこのくらいがちょうど良いだろう。
ふと、視界の端を何かが動いたような気がして、俺は体を強張らせた。
視線を向けると、ランニング中の女が歩くのとさほど変わらないスピードで境内を横切って行くのが目に入ってきた。
見苦しく揺れる尻の肉を見送ってから、俺は大きくため息をつく。
闇雲に歩き回ったところで、あいつに出会う確率なんて宝くじに当たるのと同じぐらいのものだろう。
それに見つけたとしても、俺はどうするつもりなのか……。
自分でも矛盾しているな、とは思う。
俺はただ、「探した」という事実を作って安心したいだけなのかもしれない……。
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